空き家化し朽ちていく家や、認知症の老人介護など、現代の家族が直面する忘却の情景を詩的で美しく、時にユーモアを交えた映像やインスタレーションで表現する大橋文男。山形ビエンナーレ2016では、山形を離れて東京で働く人々と対話を重ね、彼らと共同制作したパフォーマンス映像「うしろ耳から聞こえてくる声」を発表する。残してきた故郷にまつわる都市生活者の記憶や葛藤を可視化するプロジェクト。
  • 01 イモニコケシ
    相澤千里、荒井良二、安藤功、稲垣綾子、柏倉美地、梶田可名、布川えりか、樋口瑞穂、村井純平、大橋文男
    山形出身の首都圏在住者が集い、故郷に想いを馳せながら、脳裏に浮かぶ「想い人」の姿形を根菜類でつくった。各々の想いを宿した「根菜姿」は、古くから東北に伝わる風俗・風習や祭祀とのつながりを連想させる。根菜姿は山形の郷土料理「芋煮」に調理され、共食される。想い人を食することで、故郷を身体にとりこみ、融合する。

  • 02 精霊馬
    村井純平×大橋文男
    酒田市出身で、現在は東京の小学校で教員をしている純平さんのおじいさんは、お盆に祖霊を迎える藁の「精霊馬」づくりの名人だった。純平さんはその精霊馬を、子供の頃の記憶のみで再現することを試みる。そしてできあがった精霊馬を、お盆に山形の実家へ持ち帰った。藁の馬を編みながら、母親との会話のなかから、聞こえてくる声。

  • 03 服壺
    布川えりか×大橋文男
    東京で舞台役者をしている孫のえりかさんに宛てて、山形のおじいさんは、よく手紙やFAXを送ってくる。えりかさんはその手紙を、おじいさんの服を着て、おじいさんがするようにして、暗唱してみることを思いついた。服は「同一性」の容れ物になる。家族の服のなかに入り込むことで聞こえてくる、山形が呼ぶ声。

  • 04 かいふう記
    相澤千里×大橋文男
    赤湯出身の千里さんは、小学生の頃の夏休みはいつも、東京に住むふたつ上の従姉妹と一緒に過ごしていた。何年にもわたって、夏の間、ふたりは毎日も同じことをして過ごした。従姉妹が東京へ帰ってしまうと、千里さんの中に虚無感が充満した。時が経ち、ふたりとも東京に暮らす今、千里さんはあの夏の虚無感について記憶を遡りながら、従姉妹とLINE上で対話をおこなった。

  • 05 渋谷山形異次元
    稲垣綾子×大橋文男
    庄内町から上京した綾子さんにとって、東京とはすなわち「渋谷パルコ」であった。そのパルコが明日閉館するタイミング(2016年8月)に撮影をおこなった。彼女の描いた山形の絵が、手づくりのiPhone上でスクロールされ、つぎつぎと画面からこぼれ落ち、くるくる舞いながら、スペイン坂に向かって落ちていく。

  • 06 東京東北麻雀
    安藤功×大橋文男
    南陽市出身の功さんは高校を卒業してから、進学のため上京した。いよいよ山形を離れるという日、友人と麻雀をした。仲間内で功さんだけが上京することについて、友人たちは麻雀をしながらずっと「説教した」のだという。その状況を再現するように、東京で、東京の友人たちと麻雀をした。卓上で牌が混ざる音のなかから、山形が聞こえてくる。

  • 新作
    07 シャンソン物語
    柏倉美地×大橋文男
    山形市内の中心地にある喫茶店「シャンソン物語」。看板名のとおりいくつもの物語を紡ぎながら歳月を重ねてきました。上山市出身の柏倉さんは東京でエディトリアルデザインの仕事をしています。柏倉さんは高校生のころからずっと喫茶「シャンソン物語」に憧れていました。そこは特別な場所と時間。その想いを柏倉さんは手紙に書きました。うしろ耳からの声(手紙)はどう聞こえてくるのでしょうか。

「うしろ耳から聞こえてくる声」#01〜#07
大橋文男/2016年
協力:安藤功、梶田可名、稲垣綾子、村井純平、布川えりか、相澤千里、柏倉美地、樋口瑞穂、荒井良二、川辺剛彦、小熊雅子、釜屋憲彦
企画協力:6次元
キュレーション:宮本武典

大橋文男(おおはし・ふみお)/1963年石川県生まれ。2016年東京藝術大学大学院美術研究科後期博士課程修了。主な展覧会に、瀬戸内国際芸術祭関連事業 小豆島AIR art project(2010年/小豆島)、CAF.N展(2010年・埼玉県立近代美術館/さいたま市)、ヨコハマトリエンナーレ2011特別連携プログラム(2011年・新港ピア/横浜市)、「TRANS ARTS TOKYO」(2012年・旧東京電機大学/千代田区)、「あなごうの森」個展(2012年・gallery坂巻/東京都中央区)、「2013瀬戸内国際芸術祭」(2013年/小豆島)、「釜山国際ビデオアートフェスティバル2013」(2013年/韓国)、「撤収!」展ハンマーヘッドスタジオ新港区(2014年・新港ピア/横浜市)、「TRANS ARTS TOKYO 2014」『CAVE –KANDA PROJECTION-』(2014年・旧東京電機大学/千代田区)、「東京藝術大学+チューリッヒ芸術大学国際交流展」(2015年・東京藝術大学美術館/台東区)